構想&説得期 ~その3~(対社内(上司)②)

ちょっと一般論から。

他人を協力者にするには、以下の過程が必要と思います。

(1)問題を認識・理解してもらう

(2)問題を解決することが、自分にとってメリットになると認識する

 

これを、法人後見を始める事について、対上司に当てはめると、

(1)問題を認識・理解してもらう

→現状のまま何も手を打たないと、数年後に赤字化。さらに、業務過多により退職者が出てチーム崩壊。そうなったらセンター長に責任が及ぶ。

(2)問題を解決することが、自分にとってメリットになると認識する

→法人後見を開始すれば、(1)が解決。さらに、順調に支援を拡大していけば、県内随一の実績を残すセンターとなり、そのセンターを率いたセンター長としての名声を得られる。

 

「支援できる利用者が制限される」からとか、「現場職員が苦しむ」からとか、残念ながら、他者のメリットを強調しても、経験上あまり響きません。

(理由は、前回のブログ ~その2~(対社内(上司)①)をご覧ください)

ということで、私の場合は、如何に上司にとってメリットがあるかを強調する作戦をとりました。

 

具体的手法は次の3つです。

これらを折に触れ、機会があるごとに、しつこく繰り返しました。

 

①直接交渉

都度、作った事業プラン(~その1~(事業プラン作成)を参照)を持って、「ちょっとお時間よろしいですか?」と言って、説明を繰り返しました。

相当しつこく行ったので「またか・・・」と思われていたと思います。

 

でも、結果は毎回玉砕。「理解はするけど、今は時期尚早」と良く分からない理由で却下の繰り返しでした。

 

でも、こちらも工夫をします。

数値データだけでは説得力が足りないと思い、会社の許可を得て、先行社協に視察に出かけました。そこで学んだ具体的運営方法、実績数値、収支状況などを次の事業プランに落とし込み、再度プレゼンです。

 

しかし、社内ヒエラルキーの壁は、そう簡単には崩せません。

結局、この手法だけでは直接的に結果につながりませんでした。

ちなみに、実施に至るまで、2~3人センター長が代わりました。新しい方が着任するたびに説明は一からやり直しでした。

 

②他者を通じた説得

直接交渉では、社内ヒエラルキーを超えられなかったので、この手法も併用しました。

上司以外の方にプレゼンし、納得と理解を得て、センター長に話してもらう方法です。

具体的には、

〇社内ヒエラルキー上位の方 

 局長、会長、理事会員、評議員

〇社内ヒエラルキー外部の方

 弁護士などの専門家、民生委員、専門家委員会の委員

 

結果的に、この手法も直接的に効果があったとは言えませんが、外堀を埋めていくことは間接的効果はあったかと思います。

ただし、上司を飛び越えての行動は、上司の反感を買う危険性があるので、よくよく注意してください。

 

③データや新聞記事による間接的な理解促進

この手法は、公情報により①②を補強するために使いました。

例えば、

〇関連の新聞記事

〇先行社協の実績

〇統計データ

などを、余計なことを言わずに、都度切り抜いて回覧していました。

折に触れ目に触れてもらうことにより、時事問題であることを認識してもらうことに役立ったと思います。

 

結果をお伝えすると、上記①~③だけで上司の承認を得ることはできませんでした。

しかし、後に承認を得るための、不可欠で地道な種まきであったと思っています。

 

構想&説得期 ~その2~(対社内(上司)①)

前回のブログで、法人後見を始める事のメリット、中長期プランを、客観的な定量的数値で作成できたと思います。

 

今回からは、その資料を使って、各ステークホルダーと議論し、法人後見開始に向けて合意を得ていく過程を説明していきます。

 

まずは、ここが納得し合意しなければ話が進まないので、最優先に対応せねばならない、対上司についてです。

 

しかし、戦略を考えず、熱い想いだけで交渉に入っていはいけません。大抵(私と同様に)玉砕します。

まずは、上司の立場や思考回路を分析することが必要です。

 

社協の場合、上司であるセンター長は、大抵は以下のどちらかに分類されます。

自治体からの出向者

自治体からの天下り

 

どちらの場合でも、共通点は以下の通りです。

自治体出身者である

〇3~5年で社協を去る

〇成果を出しても、昇給・昇進につながることは少ない

 

そのため、次のような思考回路を持つことになります。

〇大きな変化のあることはしたくない

〇期間限定なので、問題解決を先送りにする

〇必要以上の労力は費やしたくない、よけいな仕事はしたくない

 

この前提に立ち、如何に上司に納得し合意をしてもらい、味方になってもらうか。

非常に難題ですが、私は、次の3つの手法を駆使していきました。

①直接交渉

②他者を通じた説得

③データや新聞記事による間接的な理解促進

 

私が行った具体的過程は、次のブログで。

 

 

構想&説得期 ~その1~(事業プラン作成)

次は、構想&説得期です。

この時期に必要なことは「法人後見を開始することによる中長期構想を練り、各ステークホルダーの納得と合意を得る」ことです。

 

具体的には、

①法人後見を始める事のメリット、中長期プランを、客観的な定量的数値で作成する

②①を使って、各ステークホルダーと議論し、一致点を見出す

ことです。

 

①法人後見を始める事のメリット、中長期プランを、客観的な定量的数値で作成する

主観的な想い・感情だけでは、各ステークホルダーの納得と合意を得ることはできません(もちろん熱い想いは必要ですが)。

ニーズ数、支援する人数、収支や収益、それらの中長期プランを作成する必要があります。

 

ニーズ数

自治体基礎データや厚生省統計資料から、高齢者・障害者人数、認知症出現率、独居・高齢者世帯割合により、援助が必要な人数を割り出します。その後、施設入居割合、日常生活自立支援事業による支援者数、専門家後見人による支援者数などを割り出し、法人後見事業を必要とする大まかなニーズ数を割り出します。

 

支援する人数

年間の法人後見による支援可能人数を割り出します。当法人では年間10名を目標としました。

 

収支や収益

収入についは、後見報酬を算出します。@25万円/年間で年間収入額を算出してください。なお、後見報酬は活動1年後の後払いとなるので注意してください。

支出については、人件費、市民ボランティア報酬、保険料などを見積もってください。

収入ー支出で年間の収益予測ができます。

 

中長期プラン

上記に基づき、5年後までの数値プランを作成しました。

 

これらをA4(できれば表裏で1枚のみ)に落とし込み、事業プランを作成します。

 

 

 

問題発見期

まずは、問題発見期です。

この時期に必要なことは「現事業の問題点を把握し、法人後見が必須と認識する」ことです。

 

社協での経験をまとめると、

現事業(日常生活自立支援事業、市民後見事業)に最大限取り組み、支援件数を伸ばしていった。

職員ひとりの担当件数が増えていき、業務量が増大していく。しかし、常勤職員を増やすだけの収入は得られない。

このままでは現場が疲弊。数年後には以下のどちらかになる。

①利用者のために、限界まで頑張る

 現場職員の不満がたまりチームの雰囲気悪化→職員の退職→さらなる負担増→利用者への悪影響→業務崩壊

②利用者を犠牲にする

 ①を避けるために、利用者の人数を制限し、それなりの支援しかしない。→多くの支援を必要とする市民を置き去り

①を選択するが、現場職員の負担を減らすためには、職員数を増やしていくことが必須。

最も確実な、自前で稼ぐ手段を考える。

現事業の経験と知見がそのまま使える、法人後見事業の開始が必須。

 

との考えに至りました。

現事業に最大限取り組んでいれば、自然とこの思考に至るはずです。

なので、問題発見期は1年あれば十分です。

 

ただし、現事業を「やればやるほど大変だから、このくらいでいいや」の、自分たちを守り利用者を犠牲にする姿勢で取り組んでいるなら、当然上記には至りません。

この姿勢の社協なら、現場職員は、まずは現事業を全力で行うことに取り組んでください。自分が何のためにこの仕事をしているのかに立ち戻り、深く考えてください。そして、一緒に取り組む同僚と話し合い、議論をしてください。

法人後見事業を始めるまでに必要なプロセス

前回、法人後見事業を始めるために、全ステークホルダーを挙げ、それぞれのメリットを提示しました。

再掲すると、以下になります。

(1)市民

(2)市民ボランティア

(3)自治

(4)専門家後見人

(5)社内(上司、部下)

 

当然、全ステークホルダーの納得と合意が必要なので、もちろん全てに同時並行で水面下交渉を進めていきますが、事業開始のためには(5)と(3)の納得と合意が最優先かつ不可欠です。

順番としては、(5)→(3)ですね。上司の合意が得られなければ、会社の方針にならないので、公式に動くことができません。

 

社協の例を挙げると、構想を考えてから事業開始までに6年もの時間を要しました。大半の年数を(5)に費やしました。逆から見ると(5)さえ得られれば、7割方終了です。あとのプロセスは自然の流れで進んでいきます。

 

ここで、事業開始までの大まかなプロセスを記しておきます。

⓪問題発見期

 現事業の問題点を把握し、法人後見が必須と認識する時期

①構想&説得期

 法人後見を開始することによる中長期構想を練り、各ステークホルダーの納得と合意を得る時期

②承認期

 (5)社内(上司、部下)の承認を勝ち取る時期

補助金要求期

 (3)自治体の承認を得て、事業開始における補助金を得る時期

④実践期

 事業を開始し、試行と実践を積み上げる時期

 

社協では

⓪1年

①3年

②1年

③2年

④1年

の年数を要しました。前述の6年間は、①~③までに要した期間ですね。

思い直すと、時間がかかり過ぎたのが実感です。

次回から、各プロセスにおける具体的経験をお伝えしていきます。

 

みなさんには、当方の失敗や成功体験を生かして、できるだけ短い期間で事業開始まで至ることを目指してほしいです。

 

 

人件費獲得以外の目的 ~その2~

次は、下手したら競合相手となり、敵対する可能性のある専門家後見人に対して。

(4)専門家後見人のために

①本来業務での稼ぎにつながる

社協が法人後見を行うと、やはり半公的機関のため信用度が高いのか、結構依頼がきます。けれど、限られた職員で支援を行うため、できるだけ直接支援に関わらないことは外部委託するようになります。例えば、不動産売却、相続など、これらの業務は、その道のプロである弁護士や司法書士などに依頼することがほとんどです。

そのため、法人後見件数が増えれば増えるほど、専門家に依頼する業務が増えるので、専門家の稼ぎにもつながります。

②つながりや連携が強化される

社協の後見業務が推進していけば、各委員会や中核機関における専門家会議などが設置されていきます。専門家後見人の方々には、当然その委員に就任いただき、専門的見地からアドバイスをもらいます。このことが、また新たな仕事につながるきっかけとなるかもしれません。

 

最後に、最も難敵かもしれない、社内(上司、部下)に対してです。

(5)社内(上司、部下)のために

①法人全体として

〇不採算であるが必要な事業への資金援助が可能となる

〇将来、補助金や委託金人件費が削られた際、雇用継続の資金源となる

自治体に依存しない自主財源のため、自主事業に投入できる

〇実績を出していけば、県内で有数の社協になれる。結果、遺贈寄付の可能性が拡大する

主として、上司、特に全体経営に携わる上層部向けですね。

②部署として

〇数多く直接ケースを経験するため、職員の経験値や能力が向上する

〇人件費を自前で稼いでいけば、自分たち現場職員が、近い将来アップアップとなり苦しまないようになる

主に、部下、現場職員向けですね。

 

これで、自分の中で法人後見事業を行わねばならない理由・動機が確立しました。

次のプロセスは、これらを駆使して、周囲を巻き込み、説得し、同意を得ていくことになります。

 

ところが、現実は簡単には進みません。

このプロセスが一番の難関であり、最も期間を要することになりました。

人件費獲得以外の目的 ~その1~

前回、当社協が法人後見事業を始めなければならなかった、1番の理由は、

人件費獲得、下世話な言葉で言えば「お金」とお伝えしました。

 

この後、事業実施までには、上司、部下、ボランティア、自治体など、多くのステークホルダーの納得と合意を得ていかねばなりません。

はたして、上記の理由一つで全員の納得と合意が得られるでしょうか?

 

ステークホルダーに民間企業は、ほぼ含まれません。必然的に公的機関関係者が多くなります。この方々は「お金を稼ぐ」ことに対し、過度の嫌悪感を持っています。

したがって、そのような方々でも同意してくれる理由を提示することが求められます。

 

そこで、「お金」以外の法人後見事業を開始する理由を、できるだけたくさん引き出しにしまっておくことが必要です。説得する相手に応じて、「今はこれを出し、あちらは引っ込めておく」手法が求められます。

 

では、具体的に述べていきます。

 

まずは、誰もが反対できない理由。金科玉条は「市民のために」です。

(1)市民のために

①手厚い支援を提供できる

市民ボランティアを中心とした支援体制とする。そのため、財産管理に偏らず身上保護を重視した寄り添う支援が可能になる。この特徴は、専門家後見人に求めることが難しい点である。

②誰も見捨てない

社協が最後のセーフティネットとなる。専門家後見人でも難しいケースでも受任可能となる。

③後見制度の理解促進

①②が浸透するにつれ「社協=後見相談機関」の理解が広がる。結果、後見制度の理解と利用が進む。

 

次に、市民に含まれますが、「支援する側」のボランティアに対してです。

(2)市民ボランティアのために

①活躍の場が広がる

市民後見人養成研修を卒業したけれど、荷が重くて市民後見人を躊躇している方が多い。その方々に、比較的責任が軽い後見事業での支援員という、活躍の場が提供できる。

②市民後見人の増加につながる

市民後見人との相互連携が可能になる。例えば、市民後見で受任したけれど困難ケースだった場合、法人後見に移し替えることが可能になる。逆に、法人後見で受任したケースの困難性が排除されれば、より手厚い支援可能な市民後見人へ移行することもできるようになる。

このようなサポート体制ができれば、安心して市民後見人になろうという方が増えていく。

 

次は、金銭的にも、首長申し立てでも協力が不可欠な自治体に対してです。

(3)自治体のために

①首長申し立ての受け皿になる

困難ケースは法人後見で、手厚い支援が必要なケースは市民後見人で、と、どんなケースも社協で受任ができるようになる。顔の見える社協が受任することは、後見申し立てをし、後見人候補者を決める自治体にとって、後に責任を負わないための安心につながる。

②市民協働の推進になる

昨今、市民協働や住民参加は自治体運営のキーワードであり、基本計画にも謳われることが多くなりました。この実践例として良例となる。

③将来の財政負担軽減

社協が法人後見事業で自ら稼ぐようになれば、事業発展後の追加人件費として補助金を出す必要がなくなる。したがって、事業開始時のみ援助すればよくなるので、自治体としては安心材料となる。

④中核機関につながる

社協が実践経験を積んでいけば、国が推進している中核機関設置において、社協へ安心して委託できるようになる。

 

ちょっと長くなったので、2回に分けますね。

続きは次回で。