承認期~おまけ2~(基本理念・行動指針策定の基本方針)

では、どの様に「基本理念や行動指針」を策定していったのか、その方法をお伝えします。

 

大前提として、法人の「基本理念」を変える事は禁忌と思っています。

なぜなら、法人は「基本理念」に基づき全てが派生しているからです。

事業内容、判断基準、職員採用基準、事業計画など全てに及びます。

個人と同じですね。アイデンティティが崩れてしまうと何も判断できなくなり動けなくなってしまいます。

「基本理念」を変えるならば、別法人を立ち上げるべきだと思います。

 

社協には前回のブログで示した通り、設置根拠法があります。

加えて、全国社会福祉協議会から経営指針や基本要項などが出されています。

そして、各社協には設置規定があります。

このように、「基本理念や行動指針」の背骨はしっかりと存在しています。

 

問題は、

〇抽象概念であるため日々意識しにくい

〇そもそも職員が存在を知らない。意識していない。

〇当社協独自のものとなっていない。

にありました。

 

そこで、策定の基本方針は、

〇新たに作るのではなく、既存のものを再編集する

〇全職員が意識できるよう、簡易な分かりやすい表現にする

〇当社協に合致する内容にする

としました。

 

次のブログでは、具体的手順についてお伝えします。

承認期~おまけ1~(基本理念・行動指針策定)

 

 

 

 

 

地域福祉活動計画に盛り込むことができた、法人後見開始よりも大きかったこと、それは、当社協の「基本理念や行動指針」を明記したことです。

民間企業には大抵ある「企業理念」や「社是、社訓」にあたるものです。

よくある内容は「顧客第一主義」「現場主義」「不断の努力」などですね。

 

なぜ、「基本理念や行動指針」を策定することが、それほど大事なのか。

なぜ、わざわざ策定しなければならなかったのか。

 

当然ながら、社協は民間企業のようにアントレプレナーによって創業された法人ではありません。したがって、創業者の想いを言葉に表した「企業理念」や「社是、社訓」が自ずと生まれてくることはありません。

 

ちなみに、社協社会福祉法109条を設立根拠とする社会福祉法人です。

https://www.akaihane.or.jp/assets/doc/bokin/how/1610law_h15.pdf

もちろん設置根拠法があり、条文に事業内容が列挙されています。

当然その事業を担っているのですが、

〇ざっくりとした事業内容

〇自主的に創業した法人ではない

〇倒産することがないため危機感が薄い

などのため、職員は「基本理念や行動指針」を意識することは皆無です。

そのため、共通基盤となる行動指針が存在しません。

 

では何が行動指針となるか。

〇前例

〇規定・要綱

〇国や自治体の意向

がほとんどです。

 

まれに、

〇上司の意向

〇職員個人の想い

〇地域住民の声

により動くこともありますが、まあまずないですね。

 

結果、大抵の社協はどうなるか?

〇前例踏襲で、同じことの繰り返し

〇手間のかかること、軋轢を生じる事を避ける

〇数値達成目標や結果へのこだわりが低い

となっているのが現状です。

 

この先、法人後見を開始するにあたり、細かな制度設計を行うことになります。

当然に各ステークホルダーと、多くの議論が必要となります。

この際、間違った理念や方向性から始まっては、それに合わせた制度設計となり、結果、社会的有用性の低い事業に成り下がってしまいます。

そこで、当社協における「基本理念や行動指針」を共通基盤とするため、再構築し文書化する必要がありました。

 

目先の理由は、理想の法人後見開始でしたが、真の目的は、中長期的に社風・空気を変えることにありました。

 

承認期

前回、『決定的なプロセスがありました。それは、社協の「地域福祉活動計画」改定でした。』とお伝えしました。

 

計画改訂と比較的良いタイミングで重なったため、これまで各所に働きかけるも、匍匐前進の如く遅々としてしか進まなかった法人後見開始が、一気に実現に向け動きました。

 

具体的プロセスを説明する前に、社協における地域福祉計画の位置づけを説明します。

 

社協は(自治体もほぼ同様)、良くも悪くも中長期計画に基づき事業を進めています。福祉分野における自治体計画は地域福祉計画、社協計画は地域福祉活動計画と言います(試験勉強で習いましたね)。

したがって、計画に盛り込まれれば、担当者が変わろうとも、よほどの財政危機や社会状況変化がない限り、実行に至ることになります。これは良い点ですね。

 

逆に悪しき点は、

〇社会状況が変わったにもかかわらず、計画に固執する

〇計画に載っていないことは、必要性が高まろうとも行わない

が挙げられます。

 

ですので、計画に事業を載せることができれば、個人の想いではなく、法人全体としての意志として、実行可能性が飛躍的に高まることになります。

 

結論を先にお伝えすると、法人後見プラスアルファの新規事業開始を計画に盛り込むことができました。私にしてみれば120点満点でした。

ただし、改訂計画は5年間。この中に、法人後見を含む2つの新規事業立ち上げを盛り込みました。がしかし、これらを日々の多くのケース支援を行いながら完遂せねばならなくなりました。内心「こりゃ、大変だな..」と思う反面「ま、何とかなるだろ」と思っていました。

なお、「プラスアルファ」については、のちのち述べていきます。

 

さて、計画に法人後見開始を盛り込むことができた具体的プロセスをお伝えします。

実は、これまでの「構想&説得期」の地道な合意・納得プロセスがあったおかげで、あまり苦労なく計画に入りました。

なぜなら、全ステークホルダーにとって、初めて聞く話ではなく、賛同するしないは別にして、事業内容や意義についてはある程度の理解があったからです。

 

ここで、最大のキーを握るのは、対社内(上司)です。当然、上司の承認を得る事ができなければ計画に載らないからです。

計画を作る際、上司には、自然と下記の思考に至ります。

「目立つ目玉事業が欲しい…」

なぜなら、当然計画は外部に公表します。そのため、自治体関係者、市長、社協理事、評議員など、お偉方に事前事後に上司は説明をしなければなりません。

その際に、アピールできる「目玉事業」があれば、堂々と説明することができます。

 

そのため、すぐに私の意向と上司の意向は合致しました。

ただし、現場を預かる主任として、丸呑みはしませんでした。職員補充がないままの新規事業開始では、現場がつぶれるのは火を見るより明らかです。そこで、新規事業1つにつき1名の職員補充を付帯することを条件としました。結果、口約束でしたが、公開の場での了承を得ることができました。

 

このように、社内承認はすんなりと1年間で得る事ができ、法人全体としての方針として法人後見開始が位置づけられることになりました。

 

実は、地域福祉計画改定に、新規事業開始とは別に、後に大きな影響を及ぼすであろう、大事なことを盛り込むことができました。

むしろ、法人後見開始よりも意義が大きかったと思っています。

 

詳細は次のブログで。

 

構想&説得期~その7~(対市民、市民ボランティア)

長々とお伝えしてた「構想&説得期」ですが、今回で最後になります。

締めとなるステークホルダーは、法人後見を始めることにより直接利益を受ける市民と、共に事業を運営していくパートナーたる市民ボランティアです。

 

(1)対市民

社協が法人後見を始めるにあたり、市民は何の不利益も被りません。

長期に渡る手厚い支援が期待できるなど、利益のみです。

したがって、何の対応もしませんでした。

 

ただ、構想段階では、あらゆる機会で市民と直接対話して、法人後見のニーズを確認していました。1例を挙げると、知的障害をもつ親の会に参加した際は、親御さんの法人後見を求める声に圧倒されました。

 

(2)対市民ボランティア

こちらも、不利益を与えることはほぼありません。

なぜなら、法人後見を始めることにより、

①活躍の場が広がる

②市民後見人のサポート体制ができる

 ことになるからです。

*詳細は「人件費獲得以外の目的 ~その1~」をご覧ください

 

ただし、何の事前通知や話し合いもなく始めてはいけません。

ないがしろにされたと思われてしまい、事業開始後に支障を生じる可能性があります。

 

私は、構想段階で、前向きな意見を伺えそうな方数名に、直接お話をさてもらいました。法人後見に市民ボランティアとして何を期待するのか、どのような仕組みであれば協力しやすく動きやすいのかなどを伺いました。

のちに、ここで得られた意見を、実際の運用に組み込んでいきました。

 

これで「構想&説得期」は終了です。

前述したように約3年間、機会を見つけては、各ステークホルダーとの会話を地道に続けました。

3年間とは、別に自分で期限を決めていたわけではありません。

次の「承認期」に、決定的なプロセスがあったため、「構想&説得期」がたまたま3年間で終わっただけのことです。

 

決定的なプロセスとは、それは、社協の「地域福祉活動計画」改定でした。

 

構想&説得期~その6~(対専門家後見人)

続いてのステークホルダーは、専門家後見人です。

具体的には3士会と呼ばれる、弁護士、司法書士社会福祉士の方々です。

 

なぜ、社外の競合相手となる専門家後見人に対し、社協が法人後見を始めるための納得と合意を得なければならないのか?

 

主な理由は以下が挙げられます。

〇今後の連携に支障が生じる

社協は3士会に何かと依頼することがあります。例えば、各委員会委員就任依頼、講習講師依頼、相続調査や不動産名義変更などがあります。

もちろん、3士会も社協とつながることにより、仕事の依頼が増えるメリットがあります。つまり、持ちつ持たれつの関係にあります。

この関係にヒビが入ると、何かと支障が生じてしまいます。

〇上司が嫌がる

上記に付随しますが、上司は波風を立てる事を好みません。そのため、穏便に進めていく必要があります。

 

そこで、私がとった方法をお伝えします。

とにかく、専門家後見人が嫌がることは、社協が後見市場に入ってくることにより、客を奪われ稼ぎが減ってしまうことです。

公平に見て、これは当然のことです。腕一本自分の力だけで勝負をしている専門家後見人にしてみれば、自治体から公的補助を得ている社協が競合相手になることに対し、不満を抱くのはごく自然なことです。

 

そこで、私は、稼ぎは減らずむしろ増えることを伝えました。

なぜなら、

〇本来業務が増える

社協が法人後見を始めて受任件数が増えると、自ずと不動産売却や相続案件が増えていきます。この手続きを社協職員が行うことは困難です。専門知識がないし、時間もありません。そのため専門家に依頼することになり業務が増えていきます。

〇そもそも競合にならない

後見制度を必要とする、特に認知症高齢者はどんどん増えていきます。したがって、ニーズが増え続けるので、お客の奪い合いとなるわけではない。

 

もちろん、全ての専門家後見人と話したわけではありません。

自治体内の社協と関わりの深い専門家後見人に限定ですが、機会あるごとにお伝えしました。

 

 

結果、「大賛成!」とまではいきいませんが、反対意見は挙がらない状態にすることまではできました。

 

なお、数年先、法人後見の開始が決定し、制度設計に着手する時期がきます。

社協でよく取られる手法は、各専門家(もちろん専門家後見人を含む)による委員会を立ち上げ、そこで決定する方法です。

しかし、当社協では、この手法をあえて行いませんでした。担当職員が考え、社内のみで決定しました。

 

理由は、もちろん事業開始までの時間が限られていたこともあります。しかし本意は、社協の法人後見が低所得者専門となることを避けるためでした。

当然、専門家後見人は安定的収入があることを求めます。安定的収入が得られる後見ケースは、資産があり安定しているケースです。逆を言うと、低所得で困難ケースは避ける傾向があります。

専門家の意見が通りやすい委員会形式をとると、社協が低所得困難ケースを専門で受任することになりかねません。もちろんそのようなケースも受任しますが、そればかりだと、後見報酬が得られず、現存職員のキャパ以上の件数を受任できなくなります。

社協の事例から、このことが見えていたので、社協も稼いで人件費を稼ぐ仕組みが必要でした。そこで、内部決定により資産が多い方でも積極的に受任する仕組みを整えました。

構想&説得期 ~その5~(対自治体)

対社内(上司&部下)の次に優先順位が高いのは、対自治体です。

 

なぜなら、新規事業開始のためには、どうしても自治体からの補助金という初期投資が必要だからです。

初期投資とは、福祉業界にとっては、イコール人件費ですね。

社協には、収益を上げて人件費を稼ぎ出す事業はほとんどありません。当然、内部留保も微々たるものです。そのため、社協が自前で新規事業の人件費を捻出することは、残念ながらできません。

そのため、自治体からの金銭的協力が必要になります。

 

社協にとって法人後見開始が必要と確信していても、自治体にとってはあくまで別法人であり他人事です。そこで、法人後見を始める事が、如何に自治体にとってプラスとなるかを示さねばなりません。

 

まず私が行ったことは、自治体の計画を読み込むことから始めました。

具体的には、基本計画と地域福祉計画の2つです。

この計画の中に、社協が法人後見を開始することにより達成可能となる項目のピックアップを行いました。

そこで見つけた主な項目は以下の通りです。

①区民協働の推進になる

市民後見人候補者の活躍の場が広がるため、市民協働や住民参加に資する実践例となる。

 

②市民後見人の増加につながる

市民後見事業との相互連携が可能となり、市民後見人に過度な負担をかけることがなくなる。サポートが厚くなるため、市民後見人を希望する区民が増える。

 

*より詳細は、「人件費獲得以外の目的 ~その1~」をご覧ください。

 

 では、上記だけで自治体はすんなりと理解してくれるでしょうか?

いやいや、そんなに簡単ではありません。

「なるほど、そうだよね。でもお金は出せないよ。」

 

が現実です。

 

そこで、財政負担についてのメリットを提示しなければいけません。

③将来の財政負担はないこと

先々は後見報酬を得る事ができるので、その後の追加費用(主に人件費)は自分たちで何とかする。だから、負担は初期費用の人件費1名分のみで、増額することはない。

④県から補助金がもらえる

法人後見を開始するにあたり、費用の1/2が県からの補助があること。したがって、自治体負担は半分で済む。

(④の提案ができるためには、県の補助制度についてしっかりと理解していなければなりません)

 

上記の理論武装をして、何回も何回も、機会を見つけては自治体担当者に伝え続けました。あまりやりすぎると、かえって避けられてしまうので、別件で顔を合わせた際に、「そういえば…」みたいに、話を出していました。

直接の担当課だけでなく、首長申し立て担当部署、現場の各包括職員、障害・精神担当者など、少しでも関わりがありそうな職員に会うたびに話題を出していました。

さらに、現場職員だけでなく、別会議でご一緒する係長や課長といった管理職の方々にもお伝えしていました。

 

結果として、対社内の承認後、1年を経て承認いただき、常勤1名分の人件費補助をつけてもらうことができました。このプロセスの詳細はのちほどに。

 

あちこちの自治体職員に伝えたことは、結構な手間や時間を要しましたが、補助金獲得よりも、事業開始後にもっと大きな効果を生みました。

関係部署の職員の方々が、法人後見の仕組みや意義を理解してくれたことにより、当初から首長申し立てからの依頼が増え、順調なスタートダッシュが可能となりました。

 

 

 

構想&説得期 ~その4~(対社内(部下))

前回は、対社内(上司)に対する納得と合意を得るプロセスを、経験談を踏まえお伝えしました。

今回は、もう1つの対社内ステークホルダー「部下」に対して述べていきます。

 

まず注意してもらいたいことは、部下だからと言って安易に考えたり、軽視することは決してしないでください。

なぜなら、

〇実際に最前線で支援をするのは部下である

法人後見が始まった後、実際に最前線で被後見人等に対峙し支援を行うのは部下になります。その際に、法人後見の意義を心から腑に落ちていなければ、「ただでさえ忙しいのに、なぜこんな大変なことをやらねばならないのか」「別に件数を増やす必要なんてない」と自然に思ってしまいます。

社協の主任クラスには人事権や査定権がない

あるのは自分のチームにおける業務分担権限くらいです。そのため、民間企業のような上司による強制力が働きません。まあ、強制力があったからといって上手くマネジメントできるとは限りませんが。

 

そこで、上司の納得と理解を得るプロセスと並行して、部下に対しても、同じくらいの想いと労力をかけて対応をしました。

 

しかし、対上司と大きく違う点があります。それは、現場職員は福祉職専門家として「人のために、困っている人のために尽くしたい」と思っていることです。これはとても大きな違いです。決して給料も社会的評価も高いとは言えない福祉業界を選んで働く職員への、心から敬意を表すべき点です。

したがって、部下の納得と合意を得るためには、以下2点をクリアすれば良いことになります。

①法人後見を行う意義を理解してもらう。

現状、我々の支援からこぼれている、より困っている人へ支援の手を広げる手段となることをこと心から理解してもらう

②過度な負担にならないことを確約する

「社会的に意義があることを理解するけれど、これ以上大変になりたくない」。当然にほとんどの職員が抱く懸念です。この懸念を払しょくする手法・計画を提示する必要があります。

 

 

前回の対上司と異なり、部下の納得と合意を得るには、余計な小細工は必要ありません。なぜなら、少なくても「人のために尽くしたい」という想いを全員が共有しているからです。

だから、私がとった手法は一つだけ、機会があるごとに直接目を見て議論を繰り返すこと、これだけでした。 

 

①については、構築してきた、法人後見開始意義や事業計画を説明。

②については、現状を継続することが数年後に破綻すること、法人後見を始めることにより、後見報酬を稼ぎ、補助金を得て、職員補充が可能になり、過度な負担増にならないこと。

を、繰り返し説明しました。

 

理解し、納得してくれる職員

ある程度の理解ではあるけれど、主任がやるというならという職員

最後まで反発する職員

 

各々、多様な反応でした。

残念なことに、あからさまには言われませんでしたが、方針に従えないと退職した職員もいました。

しかし、現状維持が、利用者、職員、法人、誰にっとっても不幸になることが明らかである以上、妥協することはしませんでした。

 

上司による強制力をできるだけ控えて、議論を繰り返すプロセスを経た結果、積極的賛成まではいかずとも、部署全員として、法人後見を開始する空気を形成するに至りました。