実践期~その5~(原則(3)できる限り、現場に権限を与え判断スピードを上げる①)

制度設計3つ目の原則は、「できる限り、現場に権限を与え判断スピードを上げる」です。

 

この原則は、「原則(2)できる限り、事務作業を減らす」につながるものでありますが、反面、後に述べる「原則(5)できる限り、不正が生じない仕組みを作る」と相反することになります。

 

リスクを防止するために、複数職員や上司承認によるダブル・トリプルチェックを仕組み化すると、事務作業が増え、かつ、決定スピードが遅くなります。

逆に、現場職員に権限を与えすぎると、事務作業が減り、決定スピードは速まりますが、不正が生じる可能性が上がります。

 

不正が生じれば、法人後見は終わりです。いや、当社協が終わります。

したがって、原則(5)をあくまで重視はするけれども、(3)も可能とする絶妙なバランスを仕組み化する必要があります。

 

この原則のもとに定めることは、以下2点です。

①決裁基準

②法人後見候補者決定プロセス

 

①決裁基準

みなさんの法人にも必ずあると思いますが、当社協にも決裁基準が存在します。

例えば、

「20万円以上の取引」は事務局長決裁

「各部署の定例業務」は各所長決裁

などですね。

ただ、得てしてリスク回避が優先され、決定スピードは犠牲になる傾向にあります。

 

法人後見においても、法人として判断と決定を行うことは変わりがありません。

しかし、大きく違うことは、取り扱う資産は、被後見人等の個人名義資産であることです。これを、法人名義資産と同じ決裁基準で取り扱うのかという問題が生じます。

 

そこで、当社協では、後に述べる「原則(5)できる限り、不正が生じない仕組みを作る」の仕組化すること前提で、既存の決裁基準とは異なる基準を導入することにしました。

 

意外にも、上司承認はすぐに得られました。おそらく、上司も、これから何十人となる被後見人等の氏名や資産状況を、細かくチェックすることは現実的ではないと判断したと思います。

 

具体的には次のように定めました。

〇支出決裁基準

何かを購入するなど、財産管理に関する基準です。例えば、

「1万円未満」担当職員決裁

「~3万円未満」主任決裁

「30万円以上」局長決裁

〇行動決裁基準

契約など、身上保護に関する基準です。例えば、

「日常的な売買」担当職員決裁

「家裁の審判を要する行為」会長決裁

 

 

実際運用してみると、日常的な財産管理決裁は1万円未満でほぼ事足ります。

この決裁基準を担当者権限としたので、非常に事務作業がスピードアップされました。

 

ちょっと長くなったので、「②法人後見候補者決定プロセス」は次にしますね。

実践期~その4~(原則(2)できる限り、事務作業を減らす)

制度設計2つ目の原則は、「できる限り、事務作業を減らす」です。

限られた人員で、より多くの方を支援していくためには、事務作業を最大限減らし、支援に最大減の時間を費やす必要があります。

細かい取り組み含め、いくつかの対応を行いましたが、最も大きな対応策は、専用ソフトの導入でした。

 

これまで、当社協の日常自立支援事業、一般相談、市民後見事業におけるデータ管理は、主にエクセルやワードで行っていました。そのため、各種様式への転記ミスや、プリントアウトしてのデータ保存などが続いていました。

 

これらを、専用ソフト導入により、一気に効率化を図ることにしました。

導入に際し、法人後見開始のタイミングを逃してしまうと、以下の問題が生じてしまいます。

〇法人後見を現行のデータ管理方式で行うと、将来のソフト導入時のデータ移行に余計な手間が生じる。

〇それなりの導入費用がかかるので、よっぽどの理由がないと上司承認が得られない。

ということで、法人後見開始に合わせて導入することとしました。

 

しかし、大きな問題がありました。

それは、自治体からの補助金が決定し事業開始が正式決定してからでは、導入が間に合わないという問題です。

 

具体的スケジュールを示してみましょう。

事業開始決定と実施スケジュールは、依然述べたように以下の通りです。

1月 補助金決定→事業決定

4月 試行開始

10月 本格実施

 

しかし、ソフト導入には以下の作業と期間が必要になります。

導入社協の調査(1か月)

ソフト会社の絞り込み、プレゼン(1か月)

選定、社内承認(1か月)

打ち合わせ、ソフトカスタマイズ(3か月)

検証、試行作業(2か月)

既存データの移行(2か月)

と、10か月ほど要します。

 

このずれを解消する方法は1つしかありません。

それは「事業開始決定前にソフト導入を行う」です。

 

しかし、この方法を行うには、これまた大きな問題が生じます。

「事業開始が未知数なのに、ソフトを導入し費用を投入することの上司承認」です。

 

ここで、承認を得るためにも、上司の心配・反対理由を分解してみましょう。

①法人後見が開始できなかったらどうするんだ。無駄な支出じゃないか。

②そもそも、そんな予算があるのか。

 

実は、上記2つとも、対応策を事前に考えていました。さらに予算にも忍ばせておきました。

①に対して

→一般相談、日常自立支援事業、市民後見事業と一体となったソフトなので、法人後見が開始できなかったとしても、十分に事務作業効率化に資することになり、事業改善につながる。

②に対して

予備費として数百万円を計上してある(原資はこれまでの監督人報酬)。したがって、補正予算を組む必要はなく予備費充当のみ。理事会を開催する必要はない。

 

上司と数回の交渉の結果、法人後見開始の約1年前には導入許可を得ることができました。あとは粛々と約1年かけてソフト導入を行い、法人後見開始時にはソフトへの完全移行となりました。

 

なお、ソフト会社の選定ですが、やはり大きなネックは費用です。自前サーバでのソフト購入は、自治体からそのための補助金でも得られない限り無理な金額です。したがて、当方は初期費用が低く抑えられるクラウド型ソフトを選びました。

費用が抑えらる以外の利点は、即時対応してもらえること、データ管理に信用が置けることなどがあります。逆にマイナス点は、各社が使用しているため、当社協独自のカスタマイズが行えないことが挙げられます。

 

また、既存データ移行作業は相当大変です。当然ソフト会社ではなく、当方で行わねばなりません。あと、これまでのやり方が変わるので、職員が慣れるまで時間がかかるし不平不満が出てきます。1年もすれば慣れて普通になるので、意義を伝え同意を得るよう努めてください。

 

 

 

実践期~その3~(原則(1)できる限り、受任基準を広げ、多くの方を支援する)

制度設計の最初の原則は、「できる限り、受任基準を広げ、多くの方を支援する」です。

これを、お題目ではなく、具体的に制度に落とし込まねばなりません。

 

そのために作成するものは「法人後見の受任基準」です。

どの様な条件のケースを受任し、どの様な条件のケースを受けないのか、基準を作る必要があります。

 

例えば、

〇資産要件 一定の資産額以下とする。例えば「現金預金500万円以内とする」など。

〇累計要件 例えば「後見累計だけとする」など。

〇申し立て要件 例えば「市長申し立てのみとする」など。

があります。

 

ここで気を付けなければならないことは、リスクと受任件数は二律背反となることです。

要件を厳しくした場合、困難ケースやリスクは避けられるが、該当ケースが少なく受任件数は増えません。

逆に、要件を緩和した場合、受任ケースは増えますが、ケースの困難性やリスクも増加します。

 

得てして、大半の社協は、リスク回避や件数が増えることへの職員負担を恐れ、前者を選択しがちです。それも1つの選択ですが、公的な補助金を得ている以上、支援する件数を絞る姿勢は、私はどうかと思ってしまいます。

 

社協は、原則(1)に照らすと、後者の選択になるわけがありません。当然に前者の方向性となります。

 

次は、どこまで受任要件を拡げるか、を決めねばなりません。

そもそも、当社協が法人後見を開始する理由の1つに「市民後見で受任できないケースを支援する」がありました。そのため、市民後見の受任基準より広い基準とする必要があります。

また、姿勢として、「絞っておいて、後から様子を見て拡げる」ではなく、「初めに最大限ウイングを広げておいて、経験を積んでいくうちに、無理な条件を絞っていく」としました。

 

結果、非常に簡易な以下の受任基準としました。

〇市内に住所があること

〇市長申し立てであること

の、どちらかを満たせばよい、としました。

結局、「物理的に支援に行けるのであれば支援に行く」という基準にしました。

 

この受任基準を、どの職員になろうと、どんな上司が就任しようと、守り続けるためにはどうすればよいか。内規や口伝では、覆されてしまう可能性があります。

 

唯一の方法は、要綱に書き込むことです。

なぜなら、要綱改正には、それなりの手間と承認が必要なので、法人としてはあまりやりたがりませんので。

そこで、法人後見事業要綱を新規で作り、受任基準を書き込む必要があります。

ちなみに、法人後見の要綱作成は全く難しくありません。

なぜなら、先行社協がいくらでもあるので、各社協の要綱の切り貼りで、難なく作ることができます。

 

まとめると、原則(1)「できる限り、受任基準を広げ、多くの方を支援する」のために作成するものは、

①法人後見受任基準

②法人後見事業要綱

の2点になります。

実践期~その2~(制度設計の5原則)

事業の成否は、設計思想に依ると考えます。

初めの制度設計がずれてしまうと、事業開始後の修正は不可能です。

したがって、事業開始前に、しっかりと論理を組み立てた制度設計を行うことが必須です。

 

これまで何度もお伝えしたように、当社協が法人後見事業を開始する基本理念は、「支援が必要な人がいるなら、何件でも支援していく」でした。

この基本理念を実現していくための制度設計思想として、以下5点の原則を導きました。

(1)できる限り、受任基準を広げ、多くの方を支援する

(2)できる限り、事務作業を減らす

(3)できる限り、現場に権限を与え判断スピードを上げる

(4)できる限り、外部の力を借りる

(5)できる限り、不正が生じない仕組みを作る

 

これまでの経験、市民からの要望、認知症高齢者の増加などから、法人後見を始めたら、受任件数が次々と増えることは確信がありました。

問題は、次々増える受任件数を、新規職員を雇用できるようになるまで、すなわち、後見報酬を人が雇えるほど稼げるようになるまで、現存職員で支援し続けることができるかにありました。

 

したがって、如何にチームの効率化を図るか、が制度設計の肝です。ここから(1)~(5)を導きました。

 

次回から、5原則に基づき、具体的に何を行ったかをお伝えしていきます。

 

実践期~その1~(事業開始スケジュールと基本理念再確認)

ここまでで、法人後見開始に向けて、各ステークホルダーの合意、社内の承認、人件費補助金確保をクリアしてきました。

 

最後に残るのは、法人後見事業の詳細な制度設計です。

「神は細部に宿る」

のことわざ通り、制度設計がしっかりとなされていれば、職員が変わっても長期に渡って事業開始の思想が維持されます。

 

まずは、スケジュールを定めました。

(1)1月~3月 制度設計

 4月からの事業開始に向けて、詳細な制度設計を行う。

(2)4月~9月 試行期間

 2~3件を受任して、実際の運用方法を検証

(3)10月~ 本格的事業開始

 大々的広報を行い、事業の本格実施

 

前述のとおり、全ては(1)制度設計にかかっています。

「受任基準」「職員体制」「社内決済基準」などの詳細を決めていくことになりますが、全ては基本理念から導かれます。

したがって、基本理念の合意と共有が最重要事項となります。

 

1月~3月の3か月間という短期間で制度設計を行うには、無駄な時間を使っている余裕はありません。この間に、上司と何度も議論を行うことになりますが、議論がぶれないために、最初に行うことになります。

 

しかし、もはや、初めて議論する内容ではありません。

「当社協が、法人後見事業を始めなければならなかった理由」でお示ししたように、開始当初に構想し議論した内容です。

再掲すると、事業開始の基本理念は「支援が必要な人がいるなら、何件でも支援していく」です。

 

これまで、しっかり時間をかけて手順を踏んで議論してきたので、何の異論もなく、再確認と共有がなされました。

 

 

 

 

 

次回は、具体的に事業開始までに行うべきこと、決めるべきことをお伝えしますね。

 

補助金要求期~その2~(獲得成功!)

1年目の無残な失敗後、2年目はやや作戦を変えました。

 

1年目の社内役割分担は、

当方 制度設計・準備

上司 自治体との補助金獲得交渉

と明確化し準備を進めました。

1年目の補助金獲得は失敗しましたが、制度設計・準備は相当程度進んでいました。

そのため、当方の2年目前期は、補助金獲得に力を注ぐことにしました。

 

前のブログに記したとおり、補助金獲得は4月から8月までの約5か月間が勝負です。

ここで私が行ったことは、以下の通りです。

①上司をたきつけて、区担当課管理職や財政担当と話を進めるようしつこく言う

②最新の定量的データを収集しておき、いつでもプレゼンできるよう準備しておく

 

①により、上司は1年目よりは話を進めてくれていた様子ですが、それでも残念ながら、それほど熱心にアプローチしている様子はありませんでした。

 

そうこうしているうちに8月になりました。

担当課から連絡が入り、補助金要求に向けた打ち合わせを行うことになりました。

上司と私含めた数人で自治体に出向き、会議を持ちました。

そこでの議論により以下2点が判明しました。

〇担当課管理職は全く前向きではない

〇上司の優先順位は、別部署の要求事業が最優先で、法人後見開始は2番目だった

非常に劣勢な状況となり、このままでは補助金獲得の見込みはありませんでした。

 

そこで手を打ちました。

これまで培った自治体のネットワークや人脈を使い、各所に連絡を入れ、現状を伝えました。

これが功を奏したのか、突然首長へ直接プレゼンする機会を得ることになりました。

しかし、期日は明日。今日半日ほどしか準備時間はありませんでした。

ただ、日ごろから定量的データを集めていたし、各所編プレゼン資料を数種類作っていたので、首長向けに再編集をすることで、それほど苦労せず資料作成ができました。

 

プレゼンから約1か月後、同席していた副市長が非常に前向きとのうわさを耳にしました。しかし、首長の意向は全く分かりませんでした。

その後、昨年と同様に9月頃に調書を正式書面で提出し、あとは結果を待つのみでした。

 

年明け1月、承認されたとの連絡がありました。なんとか2年目で補助金獲得に成功です。残すは、4月からの実施に向けた、実務の詳細な仕組みづくりのみとなりました。

(ちなみに、第1優先の別部署事業への補助金は不承認でした。)

 

 

 

補助金要求期~その1~(1年目は失敗)

「承認期」でお伝えした通り、法人後見開始は、地域福祉活動計画改定に盛り込まれました。

期間は5年間。この間に、法人後見事業とプラスアルファの新規事業2件を立ち上げる必要がありました。

 

そこでまず行ったことは、5年間の事業計画立てです。

日常の支援に支障が生じない、チームに過度な負担をかけないなどを考慮し、以下の計画としました。

1年目 法人後見開始への補助金獲得、制度設計・準備

2年目 法人後見試行開始

3年目 法人後見本格実施、プラスアルファ事業の補助金獲得、制度設計・準備

4年目 プラスアルファ事業試行開始

5年目 プラスアルファ事業本格実施

プラスアルファ事業は、のちのち詳細をお伝えしますが、法人後見ができていることが前提となる新事業のため、法人後見開始が先となりました。

 

上記計画から、1年たりとて余裕がないことが分かりました。

そこで、次に行ったことは、社内での役割分担を明確にしました。

当方 制度設計・準備

上司 自治体との補助金獲得交渉

 

すでに、「構想&説得期」の3年間で、私のカウンターパートである自治体各課の現場職員に対しては、説明を終え、ある程度の理解を得ていました。(詳細は「構想&説得期 ~その5~(対自治体)」をご覧ください)

したがって、補助金獲得に必要なのは、自治体担当課の管理職と、財政担当の理解と納得でした。なぜなら、新規事業への補助金は、担当課管理職にプレゼンを行ってもらい承認を得る必要があるからです。また、承認を得なければならない一人が財政担当者です。

この方々との交渉は、役職から私には難しい。そこで、元自治体職員である上司に役割を担ってもらいました。

 

なお、補助金要求は、9月頃に調書を正式書面で提出をし、10月頃に財政からのヒアリングを受け、年明け1月頃に正式決定します。

したがって、4月から8月までの約5か月間で下交渉を終え、納得を得ておく必要があります。

 

この5か月間で、ある程度の了承を得てもらいたい旨を上司に伝えていましたが、残念ながら、余り動いてくれた様子はありませんでした。

結果、正式書面を担当課に提出しましたが、担当課管理職の判断で却下。初年度は無残な失敗でした。

 

このため、ただでさえタイトな5年間スケジュールを4年間スケジュールに見直さなければならなくなり、翌年度の失敗は絶対に許されない状況となりました。